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「2025年 しずおか連詩の会」出演 ラッパー・環ROYさん スペシャルインタビュー

2025年11月9日(日)「2025年 しずおか連詩の会」に出演する、ラッパー・環ROYさんのスペシャルインタビュー

「言葉は意味だけでなく、響きやイメージでもつながっていく。」
環ROY



ヒップホップの即興性を武器に、音と言葉を自在に操るラッパー・環ROYさん。サカナクションとの共演、映画やCM音楽、パフォーミングアーツや絵本制作、文芸分野にも歩みを広げています。その環さんが今秋、「しずおか連詩の会」に初めてのラッパーとして登場します。言葉を社会であり記号と捉える独自の言語感覚を、即興ラップを交えながら語ってくれました。

「市によって、ずいぶん雰囲気が違いますよね」と、静岡の印象を語ってくれた環さん。全国各地で数多くの音楽イベントに出演していますが、今回は連詩の会に初参加。まずは、オファーを受けたときの率直なお気持ちから。

―「しずおか連詩の会」のオファーを受けたとき、どのようなお気持ちになりましたか。

端的に言うと「意外」。意外だなと思いました。

―連詩って何だろう?といった戸惑いはありませんでしたか。

あまり思わなかったですね。連歌は知っていたし、文芸表現の古典の文脈では、連詩は少しアクロバティックなのかもしれないけれど、ポピュラーカルチャーにおいて「他者と詩を共有して連続で書いていく」行為自体は珍しくなくて、むしろ一般的なものとして存在していると捉えていました。だから、構える感覚はなかったです。

―連詩は言葉をリレー方式でつなぐ表現です。選ぶ言葉や置き方ひとつで流れが一変します。そんな、言葉と向き合う場でもありますが、環さんにとって言葉はどのような存在ですか。

どうまとめたら適切なのか、まだわかっていないです。ただ、一番広く言うと、言葉はほぼイコール社会だと思っている。言葉で定義されたものを集団が共有して使う状態、それが社会ですよね。一番ポピュラーなのが法律や標識。

―つまり、言葉は相手に何かを伝えるための記号?

そうですね、完全に記号だと思います。

―その「言葉」で、衝撃や影響を受けた経験はありますか。

ラップでも小説でも「すごいな」と思った言葉は幾つもありますよ。特に衝撃を受けた原体験は、ブッダブランドというラップグループを初めて聴いたときのことです。その歌詞は、僕が義務教育で学んできた言葉の使い方とは全く違う扱い方をしていた。今まで触れたことのない尖っていて格好いいものがやってきたって、若者心に響いたという感覚。ラッパーになろうと思ったきっかけと言えますね。



―最近は、気になる言葉に出会いましたか?

 今というか、常にラッパーの面白い歌詞を探しているし、変なつながり方をしている言葉とかが好きですね。本来つながらなそうな言葉がその人の声で発することで、突然関係を持つような。たぶん、その人の内部では確かに関係があるから歌詞になるんだと思うんですけど、外部からはわからない。でも、声で出力されるとつながっているんだって思える。つまり本来関係を持たなそうな言葉が結びつくことに感動しているんだと思います。

―とても語彙力が豊かで、言葉を自在に扱っている印象がありますが、学生時代から、よく本を読まれていたとか?

高校生の頃は、まるで読書をしていないです。大学生になってあまりにも暇だったので、中古書店で100円で本を買って文学を読んでいました。当時、ラップに関心が深まっていたので「肥やしになれば」と芥川やら太宰やら三島やら、いわゆる名作は一通り読みました。

―実際に、表現の中に生かされましたか。

実感はあまりないです。三島由紀夫の『午後の曳航』の文章が綺麗だったことは記憶していますが、小説より社会学や専門書が好きで、小室直樹やピエール・ブルデューを読んできました。アウトプットする作品に関連したのはそっちのほうかな。

 ―ラップや映画・広告音楽、即興パフォーマンスや絵本制作など、幅広く活躍されています。作品づくりにおいて、共通して大切にしている自分なりのルールはありますか。

自分のルールを守っているから、作品に作家性が宿ると思うんですけど、それは言語化できないようなものの気がします。自分という固有性に由来するフィルターを通して、インプット・アウトプットするものだから。それが作品であり、作家ということではないでしょうか。



 ―ジャンルごとに、言葉のアプローチも違いますか。

ラップの作詞は、音楽に乗せるために制約が多い。言葉の意味や質感と、サウンドとしての響きや質感がぶつかり合って、どちらを優先するかせめぎ合っている感覚です。でも、即興パフォーマンスは制約がなくて、かなりイメージが優先。韻を踏んだりサウンド要素が追加されますけど、言葉の記号性が強く出る方が面白くなる。即興で無音の中で言葉をつなぐ作業は詩作にかなり近いと思う。

(ラップの実演で)即興でやる、無音でやる、冬から春、そのあと夏、白いTシャツ(省略)、うるさい所から行く静か、のび太のパートナー源 静香…、こういう感覚じゃないですか。

―「しずおか連詩の会」では、5人の詩人が交互に詩をつないで40詩を作り上げますが、ラップとの共通点はありますか。

 ラップもみんなで集まって歌詞を作ったりするので、似ているんじゃないかな。

―ヒップホップ文化に、複数人で即興ラップを披露する「サイファー」やフリースタイルがありますが、連詩に親和性を感じる部分はありますか。

 あまりそこに引き寄せるのも卑近だなっていう感覚があって。元はアメリカから借りてきた文化だし。ただ、他者との共同制作に対しては、絵本を編集者と一緒に作っているし、作詞もそう。自分の中に他者の視点を内面化して選択、決定する行為に、身近さを感じているほうだと思う。ポピュラーカルチャーの領域で仕事をしているから、というのも大きいですね。

―最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

 うーん…全然思いつかないですね…読者…うーん…読者で韻踏むと…夏野菜オクラ、畑にはモグラ、ボクの複数型は僕ら、連詩の会の首班は野村…みたいに、言葉は意味でつながるだけでなく、響きやイメージ、質感など説明できないつながり方をすることもある。詩にはそういう魅力があると思うので、それを当日体感しに来てください。

一つ一つの問いに真摯に向き合い、言葉を探り出してくれた環さん。最後の即興ラップは、その場の皆の心を一気にさらうような鮮やかさ。連詩の会では、詩人たちとのセッションで、どのような「言葉」を生み出すのか、期待が高まります。



環ROY(ラッパー)
1981年宮城県生まれ。6枚のアルバムを発表し、音楽活動のほか舞台・映像・文芸など多彩な分野に活躍を広げる。パフォーマンス作品「ありか」(香港・2025年)、絵本『よなかのこうえん』(2024年)、NHK Eテレ「デザインあneo」への参加、日本科学未来館「未来の地層」音楽制作など。MV「ことの次第」は文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品へ入選。資生堂文化誌「花椿」今月の詩・選考委員。

2025年 しずおか連詩の会
11/9(日)14:00~
11階 会議ホール・風
一般1,500円、こども・学生1,000円

〈出演〉
野村喜和夫(詩人) 
川口晴美(詩人)
星野智幸(小説家)
環ROY(ラッパー)
水沢なお(詩人)

 

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