1/24(日)「グランシップ静岡能」観世流能楽師 山階彌右衛門さん・関根祥丸さんスペシャルインタビュー
1/24(日)「グランシップ静岡能」観世流能楽師 山階彌右衛門さん・関根祥丸さんスペシャルインタビュー
「駿府の『ご当地ソング』として大切にしていただきたいです。」 山階彌右衛門
「息つく暇がないくらい、すべてが見どころの作品です。」 関根祥丸
昨秋、東京・観世能楽堂で初演された新作能「青淵」。
静岡にいた旧主・徳川慶喜を追い、商法会所の設立など静岡の殖産興業と日本経済の礎を築いた渋沢栄一を描いた顕彰能です。来年1月のグランシップ静岡能では、徳川家と静岡にゆかりのある観世流能楽師が、時代を超えてつながる縁を舞台に映し出します。慶喜役の山階彌右衛門さん、渋沢役の関根祥丸さんに作品への思いと、静岡公演ならではの魅力を聞きました。
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―山階先生は「青淵」の初演から関わってこられました。どのような思いで臨まれたのですか。
山階 私が静岡でお稽古を始めてから、もう四十年ぐらいになります。そんなご縁もあって、徳川慶喜公のお役をいただきました。 観世家にとって、始祖・観阿弥の頃から駿府はとてもゆかりの深い地です。江戸時代に徳川家のお抱えの能楽一座となり、明治維新で慶喜公が駿府へ隠居される時には観世宗家も付いて行ったという経緯があります。幕臣が主君に忠義を尽くしたように、観世家にとって徳川家は主家ですから、私は観世家の人間が慶喜公を演じるのは適任だと思っていました。
―徳川家と観世家の時代を超えた絆を感じます。今回、渋沢栄一を演じる関根先生には、どのような渋沢を期待されますか。
山階 まず関根を選んだのは、関根家が埼玉の出で、渋沢も埼玉生まれというご縁があったからです。誰が演じてもいいのではなく、ゆかりのある人にやっていただきたい。また、渋沢のように未来を見据える若い人に、という思いもありました。関根は、私が特に期待している若手です。動けるし、謡も謡える。関根の祖父・祥雪氏の代から戦後すぐに静岡市でお稽古場を開いていただき、静岡ともご縁があります。
―能は、面を付けて演じるイメージがありますが、「青淵」では渋沢も慶喜公も面を着けないそうですね。
山階 能では素顔で演じることを「直面(ひためん)」と言って、素顔であっても喜怒哀楽を顔に出すことはありません。父はよく「能楽師はいい 男じゃなきゃ駄目だ」と言っていました。今で言う「イケメン」ではなく、色々な芸ができることから、姿勢や身のこなし、人柄も含めて「いい男」であることが大事だということです。その意味でも関根がふさわしいですね。
―静岡とゆかりの深い慶喜公を、静岡で演じることへの思いを聞かせてください。
山階 地元の方々には慶喜公に対するイメージがおありだと思います。だからこそ、あまり自分を出さずに演じようと思っています。 役作りで大切にしているのは、慶喜公の品格です。立ち居振る舞いや所作など、芸を通して感じていただけたらと思います。
この役は、観世家の人間だからこそ務めさせていただける役。長年能楽を続けてきたご褒美のようにも感じます。
―「青淵」は、近現代の人物を題材にした斬新な曲(演目)ですが、古典を演じる時との違いはありますか。
関根 新作能だけに過去資料が少なく、演じる上での難しさはあります。ただ、古典の人物も近現代の人物も同じように人間的な感情を持っていて共感できますし、古典の型や謡を取り入れているので、演じる上で大きく違う感覚はありません。お客様には、新しい題材でありながら、能ならではの魅力も味わっていただけると思います。
山階 前半は、慶喜公と渋沢の主従の別れが描かれる、古典の曲にありそうな世界。後半では、商売の神様が鬼に姿を変え、渋沢の夢に現れます。
―二部構成や夢に鬼が現われるなど、夢幻能を思わせますね。
山階 その鬼役を、初演では関根が演じましたが、静岡能では私が演じます。つまり、前半は慶喜公、後半では鬼。二役で出演します。「静岡能だから、前半だけでなく後半も出たい」と冗談交じりに言っていますが、思いがあるんです。鬼は商売の神であり、一方で慶喜公の化身でもあって、「東京ではいろいろな誘惑があるぞ。本当に大丈夫か」と渋沢を試すのです。この伏線回収があることで、話がさらに面白くなると思います。
関根 能では鬼と神は表裏一体のような存在です。鬼を慶喜公の化身とすることで、作品に深みを出すお考えだと思いました。 また、鬼は渋沢自身の葛藤でもあるのではないかと思っています。誘惑に傾きそうになる自分と踏み留まる自分。天使と悪魔のような心の動きですね。鬼を演じた者として、今度は渋沢の立場で演じられることを面白く感じています。
―関根先生は、今回の公演にどのような思いで臨まれますか。
関根 静岡の皆さんは温かい方が多いですね。お稽古場でも「先生、先生」と親しく声を掛けてくださいます。世話好きで気配りの できる方が多いのも県民性かなと感じています。その皆さんへご恩返しをするような気持ちで舞台に立ちたいと思っています。
―お二人とも長年、静岡で能楽の普及に取り組まれています。その思いを聞かせてください。
山階 芸というのは、一度途絶えると復活させることはとても難しい。だからこそ、継続していかなければと思っています。私は最近、「能を見て楽しかったと思わなくていいから、勉強しに来たと思って見なさい」とよく言います。それは、能には礼儀作法や人との接し方など大切なことが詰まっているからです。「青淵」でも、主従関係は決して上下関係ではありません。上に立つ者が責任を負い、下の者は安心して力を尽くせる。そういう信頼関係の在り方も学んでいただけたらと思っています。
関根 私も祖父の代から静岡でお稽古をさせていただき、多くの方々に支えられてきました。以前、ちょっとしたアクシデントがあった 時にも、山階先生の静岡のお弟子様に助けていただきました。また、グランシップの公演では能の本舞台のような舞台を組んでくださるなど、地域に素晴らしい地盤があり、能楽を支えていただいていると感じます。できる限りのことをさせていただきたいと思っています
―これまでお話を伺ってきて、「青淵」は初めて能を観る方にこそ、おすすめしたい曲だと感じました。
山階 「青淵」は、もともと東京の「飛鳥山薪能」のために作られた曲です。薪能はかがり火の中で上演されますから、分かりやすく、1時間ほどで楽しめるよう構成されています。能のエッセンスが凝縮されていて、普段は別々の曲で味わう鬼との対決や男舞などのクライマックスを一作で楽しめる。ちょっとお得感もありますね(笑)。能が初めてという方にも楽しんでいただけると思います。
関根 息つく暇がないくらい、すべてが見どころという曲です。能をよくご覧になる方にも「今の場面は、あの曲のこの型かしら」と楽し めると思います。「青淵」をきっかけに「ほかの能も観ようかな」と思っていただけたら、それがこの曲の意義になるのかなと思います。
―最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。
関根 渋沢という大役を務めさせていただけることを本当にありがたく思っています。私自身も学びながら精いっぱい勤めますので、 ぜひ足をお運びいただけたら嬉しいです。
山階 静岡を代表する能の曲といえば三保の「羽衣」が有名ですが、「青淵」も静岡・駿府の〝ご当地ソング”として、県民の皆さんに大切にしていただきたいですね。とても謡いやすく、舞いやすい曲ですので、ぜひ広めていただけたらと思います。
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山階彌右衛門 (能楽師 観世流シテ方職分)
1961年東京都生まれ。父・二十五世観世左近、兄・二十六世観世清和に師事。2007年、室町時代から続く近江猿楽山階家の名跡・十二世山階彌右衛門を約200年ぶりに襲名。国内外で数多くの能公演に出演するほか、後進の育成にも取り組む。グランシップでは開館当初から普及プログラムに関わる。一般社団法人観世会副理事長。2020年、伝統文化ポーラ賞優秀賞受賞。重要無形文化財総合指定保持者。
関根祥丸 (能楽師 観世流シテ方準職分)
1993年東京都生まれ。二十六世観世宗家・観世清和、父・関根祥人、祖父・関根祥雪に師事し、2歳で初舞台。東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業後、観世清和のもとで10年間研さんを積み、2023年に独立。自身の演能の場 「桃々会」を主宰。海外公演にも多数出演し、次代を担う観世流能楽師として活躍。「グランシップわくわく能楽教室」でも講師を務める。
グランシップ静岡能「青淵」
2027年1/24(日) 14:00~ ■中ホール・大地 ■一般5,800円 こども・学生1,000円
★「GRANSHIP」秋号には「青淵」特集ページも!(近日公開予定)★