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本と音楽の素敵な出会い『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒さんスペシャルインタビュー

本と音楽の素敵な出会い『ラブカは静かに弓を持つ』スペシャルインタビュー

非日常を得られるという点で 小説と音楽は近しいのかもしれません。
安壇 美緒(小説家)


チェロの深く美しい音色によって、孤独なスパイが心を取り戻す音楽小説『ラブカは静かに弓を持つ』。2023年本屋大賞第2位をはじめとする各賞を受賞し、今年の第69回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にも選出され、幅広い年代を魅了し続けています。物語を紡いだ背景や音楽観、10月に開催されるトークイベントへの思いを、小説家・安壇美緒さんに尋ねました。

記録的な猛暑を観測した七月。鮮やかなブルーのワンピースで安壇さんが現れると、その場が一瞬にして涼やかな雰囲気に変わりました。『ラブカ…』が発刊されてから、深海をイメージする青いモノに手が伸びてしまうとか。そこから早速小説のお話へと広がりました。

―スパイを主人公にした音楽小説という斬新な題材で、実際に起きた事件という点でも興味を惹かれました。
ニュースで事件のことを知っていたので、現代性があって題材として面白そうだなと思いました。ただ、音楽や著作権のことを全く知らなかったのでゼロからのスタートになりましたが、スパイ調で書くという点では、感情の波や機微で物語を展開する心理劇を得意としているところがあったので、書けるかなという感覚は最初からありました。

―主人公は過去にチェロを習っていたという設定でしたが、様々な楽器がある中で、なぜチェロを選びましたか?
もともと、チェロは響きが良く、独特の大きさだなという印象はあったものの、特別な知識はありませんでした。結果的にチェロを選んだことで物語に深みが増したので、良い楽器を選べたと思っています。

―J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」が、主人公の好きな曲として登場しましたね。

 クラシックに詳しくはないのですが、バッハは一番好きな作曲家でした。チェロについて調べている時に、その代表的な曲である『無伴奏チェロ組曲』がバッハの曲だというので聴いてみたら、すごく良くて。チェロの歴史の中でも、他の曲とは位置付けが違うことも感じられたので、この物語が目指すところに何かしら絡ませたいという思いがありましたね。

 
―作中に「音楽は人を救う」という言葉が出てきましたが、ご自身の体験によるものですか?
 すぐに思い浮かぶエピソードはなくて…。どちらかというと、「そうだったら良いな」と思って書いたような気がします。自分は本を一冊書き上げることで気持ちが救われているところがあるので、私にとっての文芸と、登場人物たちにとっての音楽が近いのかもしれないと考えて、そこに寄せていった感覚はありますね。

 ―チェロの美しい音色によって、孤独なスパイが変わっていく様子に、音楽の力を感じました。
 プロでなくても音楽を楽しめる、そして、楽しむ余裕がある世界になったらいいなという思いはありました。音大やプロの演奏家を目指していなくても、「この曲が弾けた」というだけで人生が楽しくなりますよね。プロであるとか、アマチュアであることとは関係なく、演奏に取り組む姿が素敵だと思える世の中であってほしいなと。特に意識して書いたわけではないですけど、気持ちが表れていたかもしれませんね。

―本屋大賞第2位や大藪春彦賞、未来屋小説大賞を受賞されて、どのような反響がありましたか?

 小さなことですが、「安壇美緒」で検索して、いろいろアップされていたことが衝撃で。プライベートで行く本屋さんにも自分の小説が平積みで置いてあるという驚き!(笑)。嬉しさよりも先に、驚きや衝撃を感じましたね。



 ―賞と言えば、静岡県立天竜高校の皆さんが同世代に薦めたい文学作品を選ぶ第14回「天竜文学賞」に、前作の『金木犀とメテオラ』が選ばれ、昨年12月、天竜高校春野校舎で授賞式が行われたそうですね。
 はい。参加させていただきました。生徒さんたちとお話をしている中で、「小説家に漫画のことを聞いたらいけないと思っていた」など、意外なお話が聞けてとても楽しかったです。 私の高校時代は、同年代の子よりは本を読んでいたと思いますが、小説家を意識して本を読み始めたのは大学の頃ですね。ただ、高校の演劇部で台本を創り上げた経験は大きかったかもしれません。
 
―10月には「本と音楽の素敵な出会い」が開催されます。コンサートホールでのトークイベントは初めてだと聞きました。

 そうなんです。だから、演奏をとても楽しみにしています。私が好きな曲を弾いてくださるコーナーもあると聞いています。一生に一度の経験になるかもしれません。

 ―共演される横坂源さんは、浜松市在住の国際的なチェリストです。オファーをしたら、「すごくわくわくしている」と仰っていました。横坂さんにどんなことを聞いてみたいですか?
ピアノやヴァイオリンではなく、チェロを選んだいきさつや、チェロのどういうところが好きかを聞いてみたいですね。チェリストとして世界のステージで活躍することはとても大変なことだと思いますが、それができる方はどれほどのメンタルか。また、国際レベルの方は、小さな頃から弾いていると思いますが、何歳の、どのようなタイミングで、「(プロのチェリストとして)やっていける」と確信できたのかに、かなり興味があります。

―どんな対談になるか楽しみです。演奏会では、小説に登場した曲をはじめとする様々な曲が演奏される予定です。
ブラームスの『5つの歌曲』は、この本を書くにあたって聴いたコンピレーションアルバムに収録されていた曲で、とても気に入ったので物語に登場させました。そのシーンでは、この曲をずっと聴きながら書いていたんですよ。

―この曲を選ばれたことが素晴らしいですね。横坂さんの普段のリサイタルでは演奏されないと思うので、とてもレアなプログラムだと思います。

もともと歌曲として作られた曲でチェロ曲ではないのに、チェロで弾くとすごく素敵になる。まるでチェロのために作られたかのように聴こえてくるんです。<

―当日が待ち遠しいですね。最後に、このマガジンを愛読されている皆さまにメッセージをお願いします。

 小説と音楽は違うジャンルではありますが、非日常を得られるという点では、近しいのかもしれません。皆さんにとって、普段の行動範囲とは違う何かが得られる日になれば嬉しいです。会場でお待ちしています。


 

 「天竜文学賞」授賞式の夜、浜松市内でうなぎの刺身を召し上がったという安壇さん。ちょうどその時に届いたメールが、偶然にも今回のイベントのオファーだったそうです。「静岡がこんなにも良くしてくれるなんて、静岡愛が高まりました!」と話してくれました。これからも静岡をご贔屓に。


本と音楽の素敵な出会い『ラブカは静かに弓を持つ』
10/15(日)14:00~
■中ホール・大地 ■一般3,800円 こども・学生1,000円


Mio Adan
安壇 美緒(小説家)
1986年北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2017年『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。著書に、北海道の女子校を舞台に思春期の焦燥と成長を描いた『金木犀とメテオラ』がある。2022年『ラブカは静かに弓を持つ』で第6回未来屋小説大賞、2023年同作で第25回大藪春彦賞受賞、第20回本屋大賞第2位となる。今後取り組んでみたい題材のひとつが「育児」。社会問題的な側面に注目している。


 

 

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