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「2024年 しずおか連詩の会」 シンガーソングライター・詩人 柴田聡子さんスペシャルインタビュー

2024年11月3日(日・祝)「2024年 しずおか連詩の会」に出演する、シンガーソングライター・詩人の柴田聡子さんのスペシャルインタビュー

「情熱があるものに触れた時は、
すごく感化されます。」 
柴田聡子



相反する言葉も見事に調和させ、未知の景色を見せてくれる。言葉の万華鏡のような、シンガー・ソングライター柴田聡子さんの歌詞。詩人としてのセンスにも富み、第5回エルスール財団新人賞を受賞。今年の春には文芸誌『ユリイカ』で、柴田聡子特集が組まれ、注目を集めました。音楽と詩を巧みに操る柴田さんに、「しずおか連詩の会」に初参加する思いや「言葉」に向き合う考えなどを聞きました。

初めて富士山を見た時に衝撃を受けて以来、強い「富士山愛」を持ち続けているという柴田さん。ライブ活動で関西方面へ移動する度に静岡を通過することで、静岡には何度も来ている感覚になっているそうです。まずは、音楽活動の原点から。

―大学の恩師の一言をきっかけに、音楽活動を始めたそうですね?

はい。ビデオ・アートの先駆者・中嶋興さんが武蔵野美術大学で教鞭をとっていて、大学4年生の時にイベントの発表内容を考えていたら、「お前は歌うか、踊るかだろ」と言われて。自作の曲を歌ったら、それまで生きてきた中で最大の評価を受けて、それから歌を始めました。

―どのようにして、今のご活躍に繋がったのですか?

タイミングと機会に恵まれ続けたと思います。私に機会をくれる人や助けてくれる人、一緒に音楽を作ってくれる人が常にいて、私はただただ作り続けることが出来ました。その繰り返しでしたね。

―曲はもちろんですが、特に歌詞や詩、文章が共感を呼んでいます。どのようにして言葉を紡いでいるか、とても気になります。

誰かに共感してもらおうとか、これを伝えようというよりも、自分の思うように言葉を書いてきたという自覚があったので、共感してもらえていることにすごく驚いています。長い間、「訳が分からない歌詞」と言われ続けてきたので、共感を呼べない歌詞なのだと思っていましたが、少なからず聴いてくれている人がいるのだという実感から、社会性を獲得して書き方にも変化があったと思います。つまり、自分の内だけで完結しているものではなくなったのだと感じています。それは、サウンドを作る面でも同じで、今は必ず誰かが聴いてくれることを意識して歌詞を書いていますし、歌の題材として特定の人がいたとしても、「その人に対して紡いだ言葉が違う誰かに渡って、違う意味になる可能性もある」と思うようになって。すごく考える意義のあることだと思いました。



―昨年発売されたエッセイ集『きれぎれのダイアリー』は、言葉の選び方や置き方が秀逸で、「クスッ」と笑える場面がありました。

ありがとうございます。『きれぎれのダイアリー』に関しては、実はウケ狙いで書いていました。
もともと文芸誌『文學界』で7年に渡って連載していたエッセイをまとめたものですが、『文學界』では私のことを知らない読者も多いだろうと思ったので、「目に留まって欲しい」「面白く思って欲しい」と七転八倒して書いたんです。今となっては、少し恥ずかしい気持ちになりますね。

 ―あれほど面白いものが書けるのは、やはり柴田さんの内にあるものだと思いますが。

ずっと面白くない人間として生きてきたし、人の目や、人にどう判断されるかということも気にして生きてきた人間でもあったので、面白いと言われることが最高の誉め言葉でした。今だったら、当時の自分に「そんなこと気にしなくていいのに」と言ってあげられると思うんですけど。

―どんな時に心が動いたり、書きたくなったりしますか?

情熱があるものに触れた時は、すごく感化されますね。音楽や映画、本もそうですが、自分の心を隠さず作っているものと直結しているような作品に、「どの感情も捨てなかったんだ」というのが見えた時、すごく心が動きます。人に対しても同じ。長く生きていると感情を犠牲にしなければいけない時もあると思いますが、それを何とか自分で守り、保っている人に出会うと心が動きますね。



 ―「しずおか連詩の会」への参加のオファーを受けた時は、どんな気持ちになりましたか。

普段、シンガーソングライターの側面の方が強いので、私に声をかけていただいたことが少し意外でした。

―普段はお1人で創作されていると思いますが、「しずおか連詩の会」では5人で詩作します。しかも、前の方の詩を受けて作る形式。どのように感じましたか。
 
結構難しそうだなと思いました。1人で作ることが多いですし、誰かと歌詞や詩を作って成功した体験があまりなかったので、「しずおか連詩の会」でのコミュニケーションがどんな感じになるのだろうと、未知の感じがありましたね。もちろん、連歌や連句の経験もないので、興味半分・不安半分な気持ちでした。

―いろいろ不安があったようですが、なぜ参加しようと思ってくださったのですか?

 今年に入ってから歌詞ではなく詩を書いたり、詩について考えたりと、なぜか詩に関わることが多くて。谷川俊太郎さんの特集に文章を寄稿することもありました。それを境に、初めて心から詩に向き合えそうだと思っていたところに、詩人の野村喜和夫さんからご連絡をいただいて、「本当にできるか」「私で大丈夫か」という不安はありましたが、腹を決めて頑張ろう、カッコつけずに挑戦してみようと思いました。

 ―さまざまな分野で言葉を扱われていますが、言葉にはどのような力があると思いますか。また、柴田さんにとって言葉とは。

言葉とは、たぶん人間が生み出したものだけれども、人間の手に負えないものだろうと思っています。例えて言うなら、人の命をも奪ってしまうほどの力。知らず知らずのうちに、死神の鎌で切られているような、全てを骨抜きにしてしまうほどの力が、言葉にあるから素晴らしいのだと思います。でも、私にとってはかなり怖い存在。常に自分の心臓を言葉の前に差し出して、いつ取られても構わない状態で書いていると思っています。恐れ多い存在だけど、言葉とやり取りすることは、取るか取られるかのスリリングで楽しいものでもあります。



―最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

 言葉と向き合い続けている5人が、連詩でエキサイティングなやり取りをすることは、すごく面白いことだと思います。そんな魅惑の舞台で私も食らいついて行きますので、気楽に遊びに来てもらえたら嬉しいです。

取材の席に、連詩にまつわる本を持参してくれた柴田さん。本には数え切れないほどの付箋が付けられ、連詩の会に向けて勉強されているようでした。詩への熱量が、「しずおか連詩の会」でどのような世界を開くのか楽しみです。11月3日の発表会で披露される作品に期待が高まります。


柴田 聡子(シンガーソングライター・詩人)
2012年、『しばたさとこ島』でアルバム・デビュー。2016年、詩集『さばーく』を上梓。エルスール財団新人賞受賞。2017年より足かけ7年に渡り「文學界」でエッセイ『きれぎれのハミング』を連載し、2023年、『きれぎれのダイアリー』として単行本化。2024年、7枚目となるアルバム『Your Favorite Things』をリリース。


(グランシップマガジンvol.39の読者アンケートプレゼントは柴田聡子さんのサイン入り詩集「さばーく」です。エントリーはこちらから)

2024年しずおか連詩の会
11月3日(日・祝)14:00開演
11階 会議ホール・風
一般1,500円、こども・学生1,000円
参加詩人/野村喜和夫、巻上公一、広瀬大志、佐藤文香、柴田聡子

 

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